「昭和の妖怪」と恐れられた岸信介。革新官僚として満州国を実験場にし、東條英機内閣の閣僚からA級戦犯容疑者を経て内閣総理大臣へと上り詰めた怪物は、徹底した現実主義者でありながら強烈なナショナリストだった。その血を受け継ぐ安倍晋三は、幼少期から祖父の背中を見つめて育った。安保闘争でデモ隊が自宅を取り囲む中、毅然として信念を曲げなかった祖父の姿は、少年だった安倍の記憶に鮮烈な誇りとして刻み込まれたという。
権力の源泉は、決して血縁の箔付けだけに留まらない。官僚機構を掌握して国家目標へ邁進させる統治技術、反対派の猛反発を浴びても一歩も引かない政治的胆力。安倍が第二次政権以降に振るった「官邸主導」の剛腕は、まさに祖父が昭和の政界で見せつけた権力集中の手法そのものだった。孫は祖父の名誉回復を誓い、祖父は孫の姿を通じて自らの宿願の完遂を夢見ていた。