鬼舞辻無惨のキャスティングにおいて興味深いのは、関俊彦が指名オファーによって選ばれたという経緯です。制作陣が求めていたのは、単に大声で怒鳴り散らす悪役ではなく、「静かな言葉遣いの中に、絶対に逆らえない絶対的な権力と底知れぬ恐怖を宿した声」でした。
音響監督や外崎春雄監督とのディスカッションの中で意識されたのは、「無惨自身は自分が悪だとは微塵も思っていない」という点です。無惨にとって人間を喰らうことも、役に立たない部下を処分することも、天変地異と同じ「自然現象」であり「正当な権利」に過ぎません。関俊彦はこの身勝手極まりない精神性を徹底的に掘り下げ、過剰に凄むことなく、淡々とした冷徹さで台詞を紡ぎ出しました。
アフレコ現場での裏話として、竈門炭治郎役の花江夏樹をはじめとする若手キャスト陣は、関俊彦がマイク前で無惨の声を一言発した瞬間に「スタジオ全体の空気が凍りつき、自然と息を呑むような緊張感が走った」と語っています。温厚で紳士的な普段の関俊彦が、収録が始まった瞬間に怪物へと変貌する様は、共演者たちの演技を極限まで引き上げる強力な推進力となりました。