釜山の食を語る上で欠かせないのが、朝鮮戦争(1950〜1953年)当時に全国から押し寄せた避難民の存在と、海洋都市ならではの地理的恩恵です。ソウルの洗練された宮廷料理ルーツとは異なり、釜山の料理は「手に入りやすい食材を最大限に美味しく、たくましく食べる」という庶民の知恵から生まれました。
代表格であるミルミョンは、冷麺の主原料である蕎麦粉が手に入らなかった時代、米軍の援助物資であった小麦粉(ミルカル)を使って作られたのが始まりです。氷が浮かぶシャリシャリの甘辛いスープに、コシの強い小麦麺が絡む一杯は、今や夏の風物詩を超えて通年愛されるソウルフードとなっています。
また、豚の各部位をじっくり煮込んだスープにご飯を合わせるデジクッパも、避難民が手に入りやすかった豚骨や豚肉を余すことなく煮出して栄養をつけた歴史を持ちます。釜山の食卓に並ぶ料理には、逆境を乗り越えてきた港町の人々のエネルギーがそのまま凝縮されているのです。