インターネット上のDIY解説記事でしばしば推奨されているのが、既存の目地の上から新しいコーキング材を薄く重ね塗りする「打ち増し(増し打ち)」という手法です。「撤去の手間が省ける」「カッターで外壁を傷つけるリスクがない」と手軽さが喧伝されますが、これには重大な制度的・物理的欠陥が存在します。目地の構造原理から見れば、コーキング打ち増し違いを正しく理解していなければ、投じた時間と費用は無駄に帰します。
シーリング材が本来の引張強度や耐候性を発揮するためには、目地の設計寸法として「幅10mm以上・厚み8〜10mm以上」の体積が必要です。劣化した目地の上にわずか1〜2mmの厚さで打ち増しを行っても、肉厚が圧倒的に不足しているため、日常的な寒暖差によるサイディングの動きに耐えきれず、短期間で新しい層ごと破断してしまいます。一般社団法人日本シーリング材工業会の技術指針においても、サイディングの縦目地改修の原則は「打ち替え」と定められています。
例外的に打ち増しが認められるのは、窓やドアの周囲にあるサッシ周りのシーリング目地です。サッシ周りの奥には防水テープや先張りシートが施工されており、カッターを深く差し込むと防水シートそのものを切り裂いてしまい、極めて深刻な雨漏りを誘発する危険があるためです。サッシ周りに関しては、幅と深さが十分に確保できる場合に限りプロも打ち増しを選択します。外壁平坦部の縦目地なのか、あるいは開口部周囲なのかという構造的差異を見極めずに「すべて打ち増しで済ませる」という判断は、住宅の寿命を削る行為に他なりません。