「この道を行けばどうなるものか――」引退試合の東京ドームで朗読された名詩『道』は、今や日本人の集合的無意識に刻まれたアンセムだ。一休宗純の作とも清沢満之の言葉とも言われるこの詩を、自らの血肉として吐き出した猪木。そこには単なる前向きな激励ではなく、「踏み出すことへの恐怖を受け入れた上で、暗闇へ身を投げろ」という凄絶な覚悟が込められていた。
そして代名詞となった「元気があれば何でもできる」。あまりに人口に膾炙したこのフレーズの裏側には、知られざる孤独な真意が潜む。重度の糖尿病と闘い、側近の裏切りに遭い、幾度も破産寸前に追い込まれながら、猪木は控室の鏡に向かってこの言葉を呟いていたという。関係者の証言によれば、それは観客に向けたパフォーマンスである以上に、折れそうな自分自身の精神をギリギリで繋ぎ止めるための「自己暗示の呪文」だった。
迷わず行けよ、行けばわかるさ。迷いを悪と断じるのではなく、迷う人間の弱さを誰よりも知っていたからこそ、その叫びは今も圧倒的な救済として機能している。