コロちゃんの誕生背景を語る上で欠かせないのが、サンリオの創業期における壮絶な試行錯誤です。サンリオは1960年8月、創業者の辻信太郎氏によって「株式会社山梨シルクセンター」として設立されました。当初は山梨県の特産品である絹製品を販売していましたが、事業は決して順風満帆ではありませんでした。
転機が訪れたのは、無地のゴム草履に可愛いイチゴ柄をプリントして販売した時のことです。無地の草履よりも、わずかなデザインを加えた草履のほうが何倍も売れるという現実に直面した辻氏は、「人間は実用性だけでなく、可愛らしさや情緒的な付加価値に心を動かされる」という確信を得ました。
当時、山梨シルクセンターは水森亜土氏や内藤ルネ氏、やなせたかし氏といった著名なイラストレーターや詩人にデザインを依頼し、ギフト商品を展開していました。しかし、他者のライセンスに依存するビジネスモデルでは、契約や権利の制約から自社が理想とする世界観を完全にコントロールすることができません。
そこで1973年、商号を「株式会社サンリオ」へと変更したタイミングで、自社で著作権を持つ完全オリジナルキャラクターの開発を決断します。こうして生み出された記念すべき自社IP第1弾こそが「コロちゃん」でした。「ほんの小さな贈り物が、人と人との間に温かい友情を育む」という辻信太郎氏の哲学が、コロちゃんの丸い瞳に宿っていたのです。