樋口萌の器を手に取ると、多くの人が高台の質感に驚く。高台とは器の底部にある台座のことだが、彼女はここに縄目文様を施している。この技法は、縄を粘土に押し当てて文様を転写するもので、古墳時代の土器にも見られる古い技術だ。
なぜ高台に縄目なのか。それは器の裏側にも美意識を持たせるためだ。日本の茶道では、茶碗を手に取り、正面だけでなく裏返して高台を鑑賞する作法がある。樋口はこの伝統的な鑑賞方法を日常の器にも取り入れ、使う人が器の全体を楽しめるよう工夫した。
縄目の質感は手触りも独特だ。滑らかな釉薬面とは対照的に、わずかな凹凸が指先に伝わる。この触覚的な変化が、器を使う行為に小さな発見をもたらす。視覚だけでなく、触覚でも楽しめる器。それが樋口の目指す方向性である。