なぜ庵野秀明監督は、劇場版の冒頭という極めて重要な幕開けにこの陰惨な描写を配置したのでしょうか。そこには、虚構の世界に過度に依存するアニメファンや観客に対する、鋭利な現実への引き戻しという演出意図が存在していました。
テレビ版の放送終了後、ヒロインたちを性的な対象や精神的な逃げ場として消費していた一部のファンカルチャーに対し、監督は「お前たちがキャラクターに求めている逃避の正体はこれだ」と鏡を突きつけるかのように、シンジの身勝手な欲望をグロテスクに可視化させました。
アスカという生身の少女をひとりの人間として受け止めず、都合の良い人形のように扱ってしまうシンジの姿は、他者との摩擦を恐れて安全地帯から欲望だけを満たそうとする人間の弱さそのものです。美しいファンタジーを徹底的に解体し、痛みを伴う生々しい人間関係の本質を提示することこそが、あの病室シーンに込められた冷徹なメッセージでした。