「店員が名札を付けるのは法律で決まっているのではないか?」という疑問を持つ方も少なくありません。しかし結論から言えば、一般的な小売業や飲食店において名札の着用を義務付ける法律は一切存在しません。
従来、法律で氏名掲示が義務付けられていた代表格は、タクシーやバスなどの旅客自動車運送事業(乗務員証の車内掲示)でした。しかし国土交通省は、乗務員のプライバシー保護や写真の無断撮影・SNS拡散を防止するため、2026年8月に省令を改正し、タクシーやバス車内での乗務員氏名掲示義務を完全に廃止しました。公共交通機関ですら実名掲示の義務が撤廃されたことは、日本社会全体の転換点となっています。
また、労働行政を司る厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」においても、従業員のプライバシー保護が重要項目として明記されています。事業主には労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」があり、従業員が安全に働ける環境を整える責務があります。執拗な嫌がらせやネットストーキングの危険を放置してフルネームの開示を強制することは、企業の安全配慮義務違反に問われかねないリスクを孕んでいます。
さらに、東京都をはじめとする各自治体で「カスタマーハラスメント防止条例」が制定・施行されるなど、社会全体で労働者を理不尽な攻撃から守る法的枠組みが急速に整備されています。厚生労働省名札基準や公的指針の潮流は、明らかに「過剰な個人情報の開示抑制」へと向かっています。