分子式と組成式の根本的な違いは、対象となる物質が「独立したひとまとまりの分子」として存在しているかどうかにあります。
水(H₂O)や二酸化炭素(CO₂)のように、非金属元素同士が共有結合によって結びつき、決まった個数の原子で1つの独立した粒子(分子)を作っている場合、その1個の分子に含まれる原子の正確な数を書き表したものが分子式です。
一方、食塩の主成分である塩化ナトリウム(NaCl)はどうでしょうか。ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(Cl⁻)が静電気的な力(イオン結合)で縦・横・高さの全方向に規則正しく無限に連なって巨大な結晶(イオン結晶)を形成しています。「ここまでが1つのNaCl分子」という明確な区切りが存在しないため、実際の原子数を数え上げることは原理的に不可能です。そのため、含まれるナトリウムと塩素の比率が「1:1」であることを示す組成式を用いて表現します。
同様に、鉄(Fe)や銅(Cu)などの金属結晶、ダイヤモンド(C)や二酸化ケイ素(SiO₂)などの共有結合結晶も、原子が無限に結合した巨大分子構造をとるため、分子式ではなく最も単純な比率を示す組成式で表されます。