沼津港は日本一の深さを誇る駿河湾に面し、全国屈指の水揚げ量を誇る漁業基地だ。この港町で長年にわたり暖簾を守ってきたのが「にし与」である。創業当初は市場関係者のための朝食処としての色彩が強かった。夜明け前から過酷な作業を終えた漁師や競り人たちが、手早く、かつ栄養満点の食事を求めて集まったのが始まりだ。
時代が移り変わっても、店内に流れる質実剛健で温かな空気感は変わらない。カウンター越しに聞こえる威勢のいい声と、手際よく調理が進む包丁の音。洗練された高級料亭とは一線を画す、港町ならではの圧倒的な「生のライブ感」こそが、訪れる者の心を捉えて離さない魅惑の正体だ。