小林幸子のキャリアにおける最大のターニングポイントは、2010年代初頭に訪れたインターネットカルチャーへの本格進出でした。芸能界の既得権益や既存メディアの枠組みが揺らぐ中、彼女が選んだのは「若者文化の現場へ自ら飛び込む」ことでした。
2013年9月、動画共有サイト「ニコニコ動画」に「【初投稿】ぼくとわたしとニコニコ動画を夏感満載で歌ってみた【幸子】」という動画が投稿されました。当初は「なりすましではないか」と疑われたものの、圧倒的なこぶしとピッチの正確さ、そして本物の小林幸子であることが確認されると、瞬く間に動画ランキング1位を獲得。再生数は瞬く間にミリオンを突破しました。続いて公開された人気ボーカロイド楽曲「千本桜」の歌ってみた動画では、演歌の枠組みを保ちつつ原曲の疾走感を完璧に乗りこなす神業を披露し、ユーザーから「歌唱力で殴られる」「本物のプロの凄み」と称賛のコメントが画面を埋め尽くしました。
さらに世間を驚かせたのが、2014年夏の「コミックマーケット86(C86)」へのサークル参加です。同人サークル「5884組(こばやしぐみ)」として一般ブースにエントリーし、ボカロ曲カバーミニアルバム『さちさちにしてあげる♪』を自らの手で頒布しました。
東京ビッグサイトの炎天下、冷房のない過酷な環境下で、小林は長蛇の列を作った一般参加者一人ひとりと目を合わせ、笑顔でCDを手渡しました。特別扱いを要求せず、コミケのルールとマナー(「お客様ではなく全員が参加者」という理念)を完全に遵守したその姿は、ネットユーザーのみならずオタクカルチャー全般から深い敬意を集めることとなりました。この行動によって、「大御所のお遊び」という穿った見方は完全に払拭され、真のエンターテイナーとしての地位をネット空間に確立したのです。