生や加熱不十分な豚肉を摂取することで引き起こされる疾患は、一般的な腹痛にとどまりません。体内に侵入する主な病原体と、それぞれの臨床的リスクを把握しておく必要があります。
① E型肝炎ウイルス(HEV)
豚のレバーや筋肉に高確率で潜んでいるウイルスです。感染すると平均約6週間(2〜9週間)という長い潜伏期間を経て発症します。初期症状は倦怠感や発熱、食欲不振ですが、急速に悪化すると黄疸が現れ、最悪の場合は劇症肝炎を引き起こして死に至ります。特に妊娠中の女性が感染した場合、劇症化するリスクが跳ね上がり、致死率は約20%に達すると報告されています。
② 有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう・サナダムシの仲間)
豚肉に寄生する条虫の幼虫(有鉤嚢虫)を摂取すると、腸内で成虫になるだけでなく、幼虫が血流に乗って脳や眼、筋肉へと移行する「有鉤嚢虫症」を発症する恐れがあります。脳に病巣が形成されると、激しい頭痛、痙攣、てんかん発作、意識障害を招き、視神経に寄生した場合は失明の危険を伴います。
③ トキソプラズマ原虫
豚の筋肉内に嚢子(シスト)として潜む単細胞の寄生虫です。健康な成人であれば無症状や軽いリンパ節の腫れで治まることも多いですが、妊娠初期に初感染すると胎盤を通じて胎児に移行し、「先天性トキソプラズマ症」を引き起こします。これにより、新生児に水頭症、小頭症、網脈絡膜炎(視力障害)、脳性麻痺などの重篤な後遺症を残すリスクがあります。
④ カンピロバクターおよびサルモネラ菌
豚肉の生焼けによって2〜5日の潜伏期間を経て、激しい下痢、腹痛、38℃を超える発熱を発症します。カンピロバクター感染症は、下痢症状が回復した数週間後に手足の麻痺や呼吸困難を引き起こす自己免疫性疾患「ギラン・バレー症候群」の引き金になることでも知られています。