激闘の末、自らの姿が怪物へと崩れ去る鏡像を目にした時、黒死牟の心に生じたのは猛烈な羞恥と葛藤だった。「私はただ、縁壱、お前になりたかったのだ」。かつて弟を超えたいと願い、武士としての誇りも、家族も、人間としての心すら捨て去った男が、最期の瞬間に手の中に遺したのは、幼き日の縁壱に買い与えた不格好な「木彫りの笛」だった。
どれほど醜い姿に成り果てようとも、400年もの間、その粗末な笛だけは肌身離さず持ち続けていたという事実。この切なすぎる対比が、黒死牟というキャラクターを単なる悪役ではなく、人間の執着と哀しみを体現した屈指のドラマツルギーとして完成させている。