この神秘的な氷の盛り上がりには、悠久の神話が息づいている。信州最古の神社とされる諏訪大社に伝わる信仰によれば、上社に鎮座する男神・建御名方神が、対岸の下社にいる女神・八坂刀売神のもとへ会いに行くために氷上を渡った道筋こそが、その正体だとされる。
日本の神道における自然畏怖の思想が、これほど鮮やかに造形化された例は他にない。神々が愛を育むために刻むとされる氷の筋は、地域住民にとって一年の吉凶を占う神聖な標識でもあった。二柱の神が巡り合う筋の方向や形状から、その年の農作物の出来や世相を読み解いてきた歴史がある。