日本は歴史的にも味覚研究のフロンティアであり続けてきた。1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布だしからグルタミン酸を分離抽出し、世界で初めて「旨味(UMAMI)」の存在を提唱した事績は広く知られている。当時は4つの基本味しか認識されていなかった世界に対し、第5の基本味を突きつけた金字塔だ。
しかし、こうした先駆的な発見がありながらも、誤った味覚マップの視覚的インパクトは強力だった。昭和から平成にかけて大ヒットしたNHKスペシャル「人体の神秘」シリーズのような質の高い科学番組をはじめ、多くのメディアが身体の不思議を取り上げてきたが、舌の部位別知覚という説は直感的に理解しやすかったがゆえに、都市伝説的に語り継がれてしまった背景がある。受容体遺伝子の特定など分子生物学的な解明が2000年代以降に一気に進んだことで、ようやくメディア側も正当な科学的知見へと舵を切り替えるに至った。