ちあきなおみがマイクを置いた真の理由。それは、1992年に最愛の夫であり元俳優の郷鍈治氏を肺がんで亡くしたことに他ならない。結婚以来、二人は公私ともに深い信頼関係で結ばれていた。郷氏は彼女のマネージャー役も買って出で、時に厳しく、時に温かくその活動を陰で支え続けた存在だった。
臨終の際、彼女は絶叫し、夫の遺体を抱きしめて離さなかったという。火葬場で見せた打ちひしがれた姿は、当時の関係者の目に今も強く焼き付いている。「夫を失った私に、もう歌う意味はありません」。そう言い残し、彼女は一切の芸能活動を休止した。引退会見すら開かず、ただ静かに芸能界から姿を消した決断。それは商品としての歌手ではなく、一人の人間として愛を全うする壮絶な選択だったのだ。