「臭いや汚れが気になるから、毎日エタノールや市販の消毒薬を吹きかけている」という実践者は依然として多い。しかし、皮膚科専門医や熟練のボディピアッサーが声を揃えて警告するのが、まさにこのピアス穴消毒液NGの真相である。
かつて昭和から平成初期にかけては「ピアスを開けたら消毒液でマメに殺菌する」という指導が一般的であった。だが、創傷治癒理論が確立された現在、消毒薬(塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジン、エタノール等)の常用は「百害あって一利なし」と結論づけられている。消毒成分は悪玉菌だけでなく、健康な皮膚バリアを維持する皮膚常在菌を無差別に殺滅する上、皮膚の再生を担う線維芽細胞や新生表皮細胞に対して強い細胞毒性を示すからだ。
強力な薬剤で表皮を繰り返し傷つけると、ホール内部の皮膚は菲薄化(ひはくか)し、バリア機能を喪失する。その結果、かえって黄色ブドウ球菌などの病原菌が繁殖しやすい土壌が完成し、浸出液が止まらなくなる事態に陥る。これが「清潔にしようと消毒を重ねるほどジュクジュクと悪化する」という皮肉なスパイラルの実態だ。
皮膚が赤く腫れ上がり、拍動痛や黄色い膿(うみ)を伴う状態になった場合は、自己判断での処置を直ちに中断しなければならない。適切なピアス穴化膿対処法は、患部を流水で優しく洗い流し、刺激を与えずに抗生物質軟膏の処方を含めた皮膚科専門医の診察を受けることである。無理にいじり倒すと、皮膚内部で炎症性の肉芽組織が増殖したり、ケロイドや粉瘤(アテローム)が形成されたりする。これが触れた際にコリコリとした感触を残すピアス穴しこり原因の代表格であり、一度形成されると自然治癒が極めて難しくなる。