ふたりの作品世界を並べてみると、その対比はあまりにも鮮烈だ。清少納言の『枕草子』は「をかし」の美学に基づき、四季の移ろいや日常の機微を鮮やかに切り取った。定子亡き後の政治的惨状には一切触れず、サロンの光輝く瞬間だけを永久凍結したかのような陽のエネルギーに満ちている。
一方、紫式部が執筆した『源氏物語』は「あはれ」の情念が深く沈殿する巨編だ。人間の業や宮廷社会の暗部、逃れられぬ孤独を鋭く抉り出す。紫式部から見れば、悲劇の渦中にありながら完璧な美の世界を作り上げた清少納言の『枕草子』は、どこか現実逃避的で、あるいは羨望の対象として眩しすぎたのかもしれない。