渋川剛気の強さは、単なる技のキレや関節技の極めにとどまりません。彼の真骨頂は、武術を極限まで突き詰めた結果として到達した「護身術の極意」にあります。
作中で渋川は、自身が危機に陥る可能性のある現場(凶悪な強敵が待つ闘技場や路地裏)へ向かおうとすると、目の前に巨大な扉や激流、断崖絶壁などの「幻影」が現れて行く手を阻むという現象を体験します。「真に護身を完成させた達人は、危機に直面してそれを切り抜けるのではなく、危機が起こる状況そのものに足を踏み入れることができない」という逆説的な境地です。
この描写は、武道界で古くから説かれる「不戦にして勝つ」「危うきに近寄らず」という防衛本能と危険察知能力の極致を視覚化したものです。心理学的な観点から分析すれば、長年の修羅場によって研ぎ澄まされた無意識の空間把握・直感力が、意識よりも先に身体へブレーキをかけている状態といえます。危険を察知しながらも、武闘家としての好奇心からあえてその警告を無視して危機に飛び込んでいく渋川の業(ごう)の深さこそが、彼の人間的な魅力を際立たせています。