全盛期のイチローが締結した契約の中で、金融・ビジネスの専門家から「歴史上最もスマートな契約形態」と称賛されているのが、イチロー後払い契約の真相です。大谷翔平選手がドジャース移籍時に契約金の大半を後回しにしたことで「ディファード(Deferred Compensation=繰り延べ払い)」という言葉が広く知られるようになりましたが、イチローはその先駆者でした。
2007年7月に合意した5年総額9000万ドルの契約更改において、イチローは年俸の一部(各年500万ドル、5年間で合計2500万ドル)の受け取りを引退後へと先送りすることに同意しました。この契約の真に驚異的なポイントは、「年利5.5%の複利利息が付帯する」という異例の条項が盛り込まれていた点です。
一般的な預金金利がゼロ近傍に張り付いていた日本はもちろん、アメリカの債券市場と比較しても、プロスポーツ球団の裏付けがある年利5.5%の確定金利は極めて有利な運用条件です。この2500万ドルは現役引退後の翌年から毎年分割で支払われており、利息分が上乗せされた結果、マリナーズから支払われる受け取り総額は最終的に4000万ドル(現在の為替レートで約60億円)を優に超えると試算されています。現役を退いて現場の第一線を離れた後も、毎年日本円にして数億円規模のドル建てキャッシュが自動的に口座へ振り込まれ続ける仕組みを、全盛期の時点で構築していたのです。
加えて、彼の手元にはメジャーリーグの手厚いセーフティネットであるイチロー年金受給額が存在します。MLBの選手会年金制度は世界のプロスポーツ界で最も充実していると評され、メジャー登録期間(サービスタイム)が10年を超えると「満額受給」の権利を獲得します。19年間プレーしたイチローは当然ながら最高ランクの満額受給資格者です。
受給開始年齢は45歳から前倒しで受け取ることも可能ですが、満額支給となる62歳まで据え置いた場合、支給額は年間約22万ドル(約3300万〜3500万円)に達し、これが生涯にわたって支給され続けます。後払い契約の巨額マネーとMLB年金の二重構造により、生活水準の低下や老後資金の枯渇とは無縁の「完全なる経済的自由」を確立しています。