社会の意識変革において、映画やドラマなどのポップカルチャーが果たした役割は極めて大きい。従来のステレオタイプな描写を脱し、当事者の複雑な心情やリアルな生活を描き出すクィア・シネマの潮流は、世界的な共感を呼んできた。アカデミー賞作品賞を受賞した映画『ムーンライト』は、アイデンティティと孤独を静謐に描き出し、表現の可能性を大いに押し広げた例といえる。
さらに、テレビシリーズの金字塔となった『POSE/ポーズ』のような作品は、80年代のボールカルチャーと当事者コミュニティの絆を生き生きと描出し、当事者俳優の積極的な起用という点でも業界に革命をもたらした。こうした表現の深化を後押ししているのが、NetflixやHBO Maxをはじめとする動画配信プラットフォームの台頭である。国境を超えて多様な物語が届く環境が整ったことで、視聴者の理解はかつてないスピードで深まっている。
また、俳優のエリオット・ペイジがトランスジェンダーであることを公表し、自らの言葉で発信を続ける姿は、エンターテインメント業界のみならず社会全体に強烈なインパクトを与えた。影響力のある人物が自らのアイデンティティを隠さずに生きられる社会の重要性が、文化の現場から提示されている。