池袋の東口と西口を結ぶ地下通路を抜け、地上に出ると無数のネオンと人の波が押し寄せる。しかし、路地を一歩入れば、時間の流れが完全に歪んだかのような空間が点在している。いま、この街の純喫茶が空前の再評価を受けている背景には、デジタル化で均質化した日常からの逃避願望がある。
東京喫茶店研究所二代目所長である難波里奈氏が『純喫茶コレクション』などを通じて世に知らしめた喫茶文化の魅力は、単なるブームを超えて確固たるカルチャーとして定着した。飲食業全体がモバイルオーダーや無人レジなど徹底的な効率化へ舵を切る中、手入れの行き届いた銀食器や布のおしぼりを手渡される体験そのものが、現代人にとってかけがえのない価値を持ち始めている。
池袋という街は、新宿や渋谷に比べてどこか泥臭く、それでいて懐が深い。高度経済成長期からバブル期にかけて花開いた昭和レトロの残り香が、ビルの地下や雑居ビルの2階にしなやかに息づいているのだ。