2015年、太田出版から突如刊行された手記『絶歌』は、社会に猛烈な賛否両論を巻き起こした。遺族への事前説明や了解のないまま出版されたこの本は、表現の自由と被害者感情の衝突という倫理的ジレンマを突きつけた。大手書店が店頭販売を自粛する一方で、ベストセラーランキングの上位を独占するという皮肉な現象が起きた。
さらに事態を加速させたのが、新潮社が発行する『週刊新潮』によるスクープ報道だ。同誌は手記出版の翌年、元少年Aの近況と顔写真を実名報道に近い形で掲載。かつての加害者の「今」を公に晒す行為に対し、調査報道ジャーナリズムとしての意義を認める声がある一方、更生の機会を奪う私刑ではないかという批判も噴出した。少年法第61条が定める推知報道の禁止規定と、凶悪犯罪者のその後を監視する報道の自由。この境界線は、今なお明確な答えを見出せていない。