広大な神域を漫然と歩くだけでは、当神社が秘める神聖なグラデーションを味わい尽くすことはできません。心身を整え、確かなご利益を享受するための参拝ルートには、知っておくべき一定の秩序が存在します。
国道138号線沿いの一ノ鳥居をくぐると、外界の喧騒が遮断された長い杉並木の参道が続きます。両脇に並ぶ苔むした石灯籠と数十メートルを超える巨木群が、参拝者の意識を日常から非日常へと切り替えます。石橋を渡り、右手に現れる手水舎で身を清めますが、ここの吐水口は精巧な青銅の龍であり、富士山の清冽な伏流水が絶え間なく注がれています。
巨大な木造の「富士山大鳥居」をくぐった先に広がるのが、拝殿と本殿を中心とした中枢エリアです。ここで見逃せないのが、拝殿を挟むようにそびえ立つ御神木、とりわけ向かって左側にそびえる太郎杉の存在です。樹齢およそ千年、幹周約8.5メートル、樹高30メートルを超える巨木は、山梨県の天然記念物にも指定されています。拝殿右手にある「次郎杉」とともに、千年前の富士山大噴火の時代からこの地を見守り続けてきた生命力は圧巻の一言に尽きます。
本殿(重要文化財)への参拝を済ませた後、多くの人がそのまま引き返してしまいますが、それは非常にもったいない選択です。本殿の東側に鎮座する「東宮本殿」は永禄4年(1561年)に武田信玄が川中島の戦いに際して寄進・再建したと伝わる極めて貴重な建築です。さらに本殿裏手へ回り込むと、そこには富士山山頂へと一本道で続く「吉田口登山道」の起点となる鳥居と登山門が現れます。この門の前に立つと、単なる神社参拝を超えて、古の登拝者たちが命懸けで霊峰に挑んだ張り詰めた覚悟が肌に伝わってきます。