二人の仕事における結びつきを語る上で欠かせないのが、昭和の名優による共演秘話です。田村正和さんはセリフを現場に一切持ち込まず、完全に頭に入れてスタジオ入りすることで知られていましたが、酒井和歌子さんもまた、徹底した台本読み込みと正確無比な演技で知られる職人肌の女優でした。
酒井和歌子と田村正和の共演作品の代表格である『若さま侍捕物帳』では、軽妙洒脱でありながら剣の達人である若さまと、そこに寄り添うヒロインとしての佇まいが見事なコントラストを描き出しました。現場スタッフの手記によると、田村さんは酒井さんに対して「お芝居の間(ま)が完璧で、余計な言葉を交わさずとも視線ひとつで芝居が成立する稀有な女優」と深い敬意を払っていたと記録されています。
当時、東宝カレンダーの表紙を飾り「若い頃の写真が今見ても息をのむほど美しい」と称賛された酒井さんと、青年期から独特の色気を放っていた田村さん。二人が醸し出していた空気感は、恋愛感情という矮小な枠組みではなく、互いのプロフェッショナリズムに対する「絶対的な信頼」に根ざした戦友関係であったといえます。