フードボウルを水洗いしても落ちないヌルヌルの感触は、食べ残しの油分ではありません。その主因は、猫の唾液がアルカリ性(pH7.5〜8.5前後)に傾いているという生理学的特徴にあります。弱酸性の唾液を持つ人間とは異なり、肉食動物である猫の口腔内は細菌が極めて繁殖しやすい環境です。
食器に残った唾液中の細菌(パスツレラ菌やブドウ球菌など)は、空気中の酸素や水分と結びつくことで急速に増殖します。増殖した菌群は、自身を外敵や乾燥から守るために粘着性の多糖類を主成分とする分泌物を網の目状に張り巡らせます。これこそが医療現場や衛生管理で警戒されるバイオフィルム(菌膜)です。
バイオフィルムは極めて強固なバリア構造を持っており、水分子を弾く疎水性の性質を示します。そのため、ただスポンジで水洗いしたり流水ですすいだりする程度では、表面を撫でているに過ぎず、膜の内部に潜む細菌ごとバイオフィルムを除去することは不可能です。放置されたバイオフィルムはわずか数時間で厚みを増し、愛猫の口内炎や歯周病、ひいては消化器トラブルを引き起こす感染源へと変貌します。