なぜ彼の声はこれほどまでに人の心を揺さぶるのか。その秘訣は「低音の鳴り」と「倍音の豊かさ」にある。
人間の耳は、低く落ち着いた声に対して無意識のうちに信頼感や権威を感じる傾向がある。速水奨の声は単に低いだけではない。シルクのような滑らかさと、胸の奥を振るわせる深い響きが共存している。マイクに乗った瞬間、空間の温度が数度下がるような独特のピリッとした空気が生まれるのだ。
洋画の吹替やドキュメンタリーのナレーションにおいても、この声の威力が如何なく発揮される。観客を作品の世界観へ一瞬で引きずり込む力。過度な誇張を排し、言葉の余韻で聴き手の想像力を刺激する手法は、現代の日本の声優業界においても孤高の領域に達している。