映画『終わった人』のあらすじは、東大卒で大手銀行の本部課長まで務めながら、同期の出世競争に敗れて子会社で定年を迎えた田代壮介(舘ひろし)の退職当日から動き出します。満ち足りたサラリーマン生活を終えたはずの壮介でしたが、いざ訪れた「毎日が日曜日」の生活に耐えられません。早起きして身なりを整えても向かう場所はなく、フィットネスクラブに通ってもシニアたちの輪に馴染めず、近所の図書館では同じ境遇の高齢者たちを心の中で見下してしまう傲慢さを抱えていました。
自分の存在意義を必死に取り戻そうとする壮介は、母校である東大の大学院を受験しようとカルチャースクールに通い始めます。そこで出会ったのが、魅力的な受付事務員・浜田久里(広末涼子)でした。久里の屈託のない笑顔に惹かれ、パトロン気取りで若返ったかのように浮き足立つ壮介でしたが、彼女にはれっきとした恋人がおり、単なる世間知らずの「勘違いシニア」として無残に失恋します。
そんな折、スポーツジムで知り合った若きITベンチャー企業「トラスティ」の社長・鈴木直人(今井翼)から、メガバンク出身の手腕を買われて顧問就任を打診されます。再び社会から求められた喜びに震える壮介は、無報酬の顧問からスタートし、会社の成長に全力を注ぎ込みます。しかし、順調に見えた矢先、社長の鈴木が急逝。会社の実態は杜撰な資金繰りと粉飾にまみれており、負債処理のために代表取締役へ祭り上げられた壮介は、数千万円規模の負債責任を一身に背負わされる事態へと転落します。
自宅を売却して私財を投じ、なんとか債務整理を完遂した壮介に対し、美容師として独立し自らのサロンを営んでいた妻の千草(黒木瞳)が突きつけたのは、離婚ではなく「卒婚(そつこん)」という選択でした。婚姻関係は維持しつつ、互いに干渉せず自立した生活を送るという提案です。
映画のクライマックス、壮介は身一つで故郷の岩手県盛岡市へと戻り、シルバー人材センターを通じて運動公園の清掃作業員として働き始めます。かつてエリート銀行マンとしてプライドの塊だった男が、泥臭く地面を掃き、汗を流しながら素朴な日常を受け入れた頃、盛岡を訪ねてきた千草と再会。川沿いを歩きながら、肩肘を張らずに軽口を叩き合う2人の穏やかな笑顔とともに、物語は温かな余韻を残して幕を閉じます。