一郎彦が闇落ちした最大の理由は、「自分は何者なのか」というアイデンティティの完全な喪失にあります。
バケモノの街「渋天街」で拾われた人間の赤子であった一郎彦。父である猪王山は彼を傷つけまいと、人間であることを隠し「牙や鼻は成長すれば生えてくる」と育てました。しかし、弟の二郎丸が立派な牙を生やす一方で、自らの顔にはいつまでも牙も毛も生えてこない現実に直面します。
自分がバケモノではないと薄々気づきながらも、敬愛する父を信じたい一心でその疑念を心の奥底に封じ込めていた一郎彦。宗師を決める決戦で父が熊徹に敗れた瞬間、彼を支えていた最後の精神的支柱が崩壊します。人間特有の「心の闇」が暴走し、胸に宿した念動力(サイコキネシス)の力で熊徹を背後から刺す凶行へと走ってしまったのです。