「前広(まえひろ)に」というフレーズは、もともと国会答弁や官公庁の行政文書、あるいは警察組織などの特殊な組織風土で多用されてきた言葉だ。「前もって、時間的・精神的なゆとりを持って幅広く準備しておく」というニュアンスを含み、相手に性急な決断を迫らない“大人の配慮”として重宝されてきた。
この官僚言葉が民間企業へと侵食した契機はどこにあるのか。『日本経済新聞』のコラムや『NewsPicks』のビジネスコミュニケーション特集などでも度々取り沙汰されているが、官民人事交流の活発化や、コンサルティングファーム出身者が大手事業会社の要職に就くケースが増えたことが大きい。彼らが日常的に使っていた独特の言い回しが、プロジェクトマネジメントの現場を通じて組織全体へと伝播したのだ。
響きがどこか知的で、角を立てずに前もった対応を促せる。そう信じた管理職たちがチャットやメールで乱用し始めた結果、意味を正確に掴めない若手との間で認識の齟齬が生じている。