ネット掲示板「なんJ」において、栗城史多氏は単なる一人の登山家という枠を超え、一種のアイコンとして消費されていました。エベレスト遠征のシーズンになると毎年のように「栗城スレ」が乱立し、彼が衛星回線を使って行う動画中継やSNSの更新を大勢のユーザーが固唾をのんで見守っていました。
ネット上の議論が過熱した最大の要因は、彼が掲げる「エベレスト単独無酸素」という壮大な看板と、実際の登山成果とのギャップにありました。春の登頂しやすいメインシーズンではなく、あえて気象条件が極めて厳しい秋季を選び、さらに難関ルートへ挑んでは途中で体調不良や天候悪化を理由に「生配信で下山を発表する」という展開が繰り返されたためです。なんJではこうした一連の流れがパターン化され、皮肉交じりに実況されるカルチャーが定着しました。
しかし、単なる冷笑やバッシングだけでは、これほど長い年月にわたって語り継がれることはありません。多くのネットユーザーは、虚飾と現実の間で葛藤し、スポンサーやファンの期待に縛られながら自らを極限へと追い込んでいく栗城氏の姿に、目を離せない「人間の脆さと業」を見ていた側面があります。