天皇徳仁陛下の卓越した語学力の原点を辿ると、1980年代のオックスフォード大学マートン・カレッジへの留学時代に行き着く。水運史の研究に没頭された青春の日々は、単なる学問の修練にとどまらず、英国社会の懐深くへと飛び込む貴重な機会となった。当時の思い出を自ら綴られた著書『テムズとともに』には、寮生活での失敗談やパブで現地の人々と交わした飾らない日常の会話が、ウィットに富んだ描写で鮮やかに記録されている。
専門的な学術議論から日常のくだけたジョークまで、現地の言葉で喜怒哀楽を共有した体験こそが、陛下の自然で生き生きとした英語表現の骨格を形作った。単に文法的に正しい英語を話すのではなく、相手の文化背景や感情を汲み取る柔軟性は、このテムズ川のほとりで過ごした2年間で培われたものだ。