多くの日本人が共有している「水戸黄門には毎回のように越後屋という名の悪徳商人が出てきて成敗されていた」というイメージは、実は後世に作られた記憶の合成です。
TBS系列で長年放送された『水戸黄門』の全エピソード(1,200話以上)を検証すると、敵役として登場する商人の屋号は実に多彩です。丹波屋、播州屋、大黒屋、備前屋、相模屋など、黄門一行が訪れる諸国宿場町に応じたご当地の屋号や架空の商人が登場しており、越後屋が登場する割合は全体の数パーセントに過ぎません。
では、なぜ「越後屋=三太夫=悪代官」という固定観念がこれほど強固になったのか。その理由は、落語のパロディ演目や漫才、テレビコントにおいて「時代劇のお約束」を凝縮して演じる際、最も語感が良く認知度の高い組み合わせとして「悪代官と越後屋」が一元化されたことにあります。複雑な設定を削ぎ落とし、最短距離で笑いとカタルシスを生み出すために、記号化が進んだ結果と言えます。