リフトに腰掛けてゲートを離れた瞬間、乗客の足元から地面がすっと遠ざかる。大室山登山リフトの全長は約305メートル、標高差はおよそ139メートル。乗車時間は片道約6分間に過ぎないが、高所が苦手な人間にとっては永遠のようにも感じられる時間だ。
恐怖の主な原因は、視界を遮るケージや窓ガラスが存在しない剥き出しの構造にある。リフトは2人乗りの固定循環式チェア。腰掛けた身体の前には転落防止用のセーフティバーが下ろされるものの、足元は宙に浮いた状態が続く。山肌の芝生やカヤがすぐ下を流れていくため、地面との絶対的な高度感は数メートル程度に保たれている区間が多い。それでも、吹き抜ける風の冷たさと足がぶら下がる感覚が、人間の本能的な警戒心を刺激する。
斜面には転落防止ネットが広範囲に張り巡らされている。仮にバランスを崩しても地面まで激突しない二重の配慮がなされているが、視覚的な広がりがあまりにダイナミックであるため、脳が高所と認識してしまうのだ。