全国の医療界に衝撃を与えた東京女子医科大学病院の医師退職問題と経営危機の背景には、単なる業績悪化にとどまらない根深いガバナンスの機能不全が存在していました。発端となったのは、元理事長・岩本絹子氏を中心とするトップダウン型の経営手法に対する学内・院内の強い反発です。関係者の証言や第三者委員会の調査報告書によると、長年にわたる理事会主導の人事介入や、同窓会組織「至誠会」を巻き込んだ資金の流れを巡る不透明さが指摘され、教職員との間で修復不可能な溝が生じていました。
混乱を決定づけたのが、2026年以降の新型コロナ禍における夏季一時金(ボーナス)の全額不支給方針や、大幅な学費値上げ(6年間で約1200万円増額)の発表でした。最前線で感染症医療を支えていた看護師数百人が退職の意向を示した騒動に続き、基幹診療科の中核を担う中堅・ベテラン医師の流出が本格化。循環器内科、心臓血管外科、麻酔科、救急医療など、特定機能病院の生命線ともいえる部門から准教授・講師クラスが相次いで大学を去る事態に発展しました。
さらに事態を悪化させたのが、同窓会関連の不正支出を巡る警視庁による家宅捜索と、元理事長に対する特別背任容疑での刑事告発でした。文部科学省からの私学助成金の減額・不交付措置や度重なる行政指導が追い打ちをかけ、名門病院としてのブランドイメージは失墜。医師が抜けたことで病床稼働率が低下し、さらなる医業収益の悪化を招くという負のスパイラルに陥ったのが、一連の騒動の実態です。