精神医学において、幻覚は「対象なき知覚」と定義されます。外的な刺激が一切存在しないにもかかわらず、本人の脳内では通常の知覚と全く同じ神経回路が活性化し、視覚や聴覚の信号として認識される状態を指します。 統合失調症の発症メカニズムとしては、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰な活動が有力視されています。脳が外部からの膨大な情報を受け取る際、通常は重要度をふるい分けるフィルター機能が働きますが、ドーパミンのバランスが崩れることで些細な雑音や内部の思考に過剰な意味づけ(サリエンスの異常付与)がなされ、外から聞こえる声や見える映像として知覚されてしまいます。 統合失調症の主症状は、活発な異常体験が現れる「陽性症状」と、活動性や感情が減退する「陰性症状」に大別されます。幻覚は陽性症状の代表格ですが、混同されやすい「妄想」とは明確な違いがあります。
幻覚は「感覚器官の知覚エラー」であり、妄想は「思考や解釈のエラー」です。ただし臨床現場では、「幻聴で悪口が聞こえる(幻覚)」体験を起点として、「近隣住民が自分を監視して悪口を流している(関係妄想・被害妄想)」へと発展するなど、両者が複雑に連動して進行するケースが極めて多く見られます。