インターネット上のレシピ動画やSNSにおいて、「松風焼き=四角く焼いた鶏つくね」と解説されている場面が散見されます。しかし、日本料理の体系において、この両者には明確な境界線が存在します。
決定的な違いは「肉の組織密度」と「切り口(断面)への意識」です。一般的なつくねは、ふんわりとした食感を出すために豆腐や長芋、過剰な水分を加え、スプーンで丸めて気泡を含んだまま加熱します。一方、松風焼きはテリーヌやパテ・ド・カンパーニュに近い緻密な構造を持ち、包丁を入れた際に角がしっかりと立ち、空洞が一切ないフラットな断面を描かなければなりません。
江戸中期の料理指南書『料理物語』や古典的な和食手引書を紐解くと、松風は本来、鳥類(キジや山鳥、鴨)のすり身をすり鉢で極限まで擂り潰し、寒天や卵白、味噌を練り込んで蒸し焼きにした高度な保存食・献立でした。切り分ける際も、長方形の短冊切りだけでなく、末広がりの繁栄を願う「扇形(羽子板型)」に面取りするのが伝統的な礼儀とされています。
単に形を四角くするだけでは松風とは呼べません。密度の高い滑らかな舌触りと、一分の狂いもなく切りそろえられた造形美があって初めて、日本料理としての松風が成立するのです。