京都の伝統的な郷土料理を語るうえで外せないのが、円山公園の名店などに代表される「いもぼう(海老芋と棒鱈の炊き合わせ)」です。江戸時代中期、青蓮院宮に仕えていた料理人が、長崎から持ち帰られた唐芋を京都東山の土壌で育てた「海老芋」と、蝦夷地から届いた「棒鱈」を共に出汁で炊き合わせたのが発祥とされています。
この炊き合わせは、単なる歴史の偶然ではなく、極めて合理的な調理科学に基づいています。
海老芋は肉質が緻密で粘り気が強い反面、長時間煮込むと煮崩れを起こしやすい特性を持ちます。一方で棒鱈はゼラチン質(コラーゲン)とアミノ酸が極めて豊富ですが、身が固く締まる性質があります。この二つを同じ鍋で長時間じっくりと煮合わせると、棒鱈から溶け出した豊富なコラーゲンとタンパク質が海老芋の表面を包み込んで煮崩れを完全に防ぎ、逆に海老芋のアクや成分が棒鱈の繊維をふっくらと柔らかくほぐすという相互補完の現象が起こります。
老舗料亭の料理人たちが口を揃えて「互いが互いを高め合う夫婦のような炊き合わせ」と表現するように、出汁の旨味を吸った海老芋のねっとりとした甘みと、棒鱈の濃厚なコクが一体化することで、京都屈指の滋味深い名物料理が完成します。