押井監督の作品群を貫く食のテーマ、いわゆる「立喰師(たちぐいし)」の思想は、パトレイバーの劇中にも色濃く影を落としている。早くて、安くて、どこか寂しい。しかし、あの濃口醤油の香りが鼻腔をくすぐる瞬間だけは、人間は社会的立場から解放される。
「立ち食いそば屋のカウンターは、都市のエアポケットなんだよ」。ある映画批評家はそう語る。カウンターに並んだ男たちが無言で丼に向き合い、黙々と麺をすする。パトレイバーが描いたその光景は、バブル景気に湧く当時の日本に対する、皮肉でありながらも温かい視線でもあった。2026年の今、効率化とデジタル化が極限まで進んだ社会だからこそ、その「無骨な一瞬」の価値が再評価されている。