藤崎竜氏による漫画版『封神演義』が傑作と称される最大の要因の一つに、原作との違いを大胆に活かした妲己のキャラクター造形があります。明代に成立した古典小説『封神演義』における妲己は、女媧から「殷を狂わせよ」との密命を受けたものの、悪行が過ぎたために最後は女媧に見捨てられ、太公望(姜子牙)によって処刑される典型的な悪女・操り人形に過ぎませんでした。
対して藤崎竜版の妲己は、女媧の操り人形どころか、女媧をも欺く超一級のトリックスターとして描かれています。古典伝承と漫画版の相違点を比較すると、その特異性が鮮明になります。
古典における妲己は「王朝を滅ぼした罪深き毒婦」として断罪されるカタルシスの対象でした。しかし、藤崎竜氏は彼女を「絶対的な理不尽(神)に対して、自らの知略と美貌のみで立ち向かった究極のエゴイスト」として再構築しました。この大胆な翻案こそが、読者を惹きつけてやまない理由です。