ネット上の掲示板やQ&Aサイトで最も多く見受けられる誤認が、「会社の健康診断で30代男性の血液検査の異常が出なかったから、自分の不調は気のせい・メンタルの弱さである」という思い込みです。これは極めて危険なバイアスと言わざるを得ません。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断の血液検査項目は、貧血の有無(赤血球・血色素量)、肝機能(AST・ALT・γ-GTP)、脂質(中性脂肪・コレステロール)、血糖(空腹時血糖・HbA1c)といった、古典的な生活習慣病のスクリーニングに特化しています。ここには以下のような重要項目が一切含まれていません。
- 遊離テストステロン値(Free Testosterone):前述のLOH症候群を確定させるためのホルモン採血は、早朝空腹時の特殊採血が必要であり、一般健診では100%測定されません。
- 副腎皮質ホルモン(コルチゾール):過度なストレスによる「副腎疲労」や内分泌機能の枯渇状態を反映する数値ですが、通常の健診では除外されています。
- 甲状腺ホルモン(TSH・Free T3/T4):代謝を司る甲状腺機能低下症は、男性でも発症し強いだるさや無気力を引き起こしますが、一般健診項目にはありません。
- 微量栄養素の欠乏(フェリチン値・ビタミンD):ヘモグロビン値が正常でも、体内の貯蔵鉄を示す「フェリチン」や、神経伝達を支えるビタミンDが枯渇していることで、重篤な倦怠感が生じる事例が頻発しています。
「血液検査がオールAだった」ということは、「肝臓や腎臓が即座に破壊されるレベルの器質的疾患が見当たらない」という最低限の確認に過ぎません。身体の機能的な破綻や神経伝達物質の不均衡、ホルモンバランスの急減を否定する根拠には全くならないのです。「検査結果が正常なのに体が動かない」と感じた時こそ、専門診療科へ足を進めるべき決定的なシグナルです。