「少しくらいなら大丈夫だろう」「お湯と一緒に流せば溶けて消えるはず」という安易な判断が、住宅設備に致命的なダメージを与える。油を排水溝に流してはいけない理由の核心は、油が持つ物理的特性にある。食用油は温度が下がると急速に粘度を増し、排水管の内壁に白くこびりつく。そこに食器用洗剤の界面活性剤や排水中のカルシウム成分、食品カスが複雑に絡み合い、化学変化(鹸化反応)を起こしてコンクリートのような「油塊」へと変貌するのだ。
管工事専門業者への取材によると、台所の排水詰まりトラブルによる高圧洗浄作業の費用相場は1回あたり2万〜5万円前後に上る。さらに集合住宅において共用配管まで閉塞させたり、階下漏水事故を引き起こしたりした場合、損害賠償額が数百万円規模に跳ね上がるリスクすら存在する。ネット上で散見される「中性洗剤を大量に混ぜて流せば乳化して流せる」という俗説は極めて危険だ。一時的に泡立って流れたように見えても、下流の冷えた配管内で洗剤ごと固着し、詰まりの規模を巨大化させるに過ぎない。
各自治体が定める油燃えるゴミの分別基準においても、液体状態のままゴミ袋へ入れる行為は禁止されている。輸送中の破裂や清掃車両からの漏洩事故を防ぐため、必ず「固形化」または「紙類・布類への完全吸着」を行ってから可燃ゴミとして排出することが大原則となっている。