力を持つ者が弱者を庇護する――そんな一般的なヒロイン像とも、コムギの立ち位置は大きく異なる。彼女は守られるべき存在でありながら、精神においては圧倒的に自立し、死の恐怖すら超越していた。
印象的なのは、メルエムが彼女の覚悟を試すために自傷させた場面や、鷲に襲われたコムギを救出するシーンだ。メルエムは当初、彼女を殺すことなど容易だと考えていた。しかしコムギは「負けたら死ぬ」という独自の覚悟を当然のように受け入れており、生への執着を見せない。己の命よりも軍儀の譜面を愛し、王の前でも決して怯まないその姿勢は、殺戮と支配しか知らなかったメルエムの価値観を根本から破壊する。
絶対的な武力を誇る王が、一切の武力を持たない少女の「弱さの中に秘められた圧倒的自我」の前に屈服する。この鮮烈な対比こそが、読者に深い衝動を与えた最大の要因と言えるだろう。