「オール(All)」という英語の響きから、七味唐辛子やカレー粉のように多種類の香辛料を混ぜ合わせたミックススパイスだと思い込んでいる人は後を絶ちません。スパイス業界大手の製品情報や植物分類学の公的データを検証すると、その認識は明確に覆されます。
オールスパイスの原材料は、中南米ジャマイカ原産のフトモモ科に属する常緑樹「ピメント(Pimenta dioica)」の未熟な果実です。直径数ミリの未熟果を収穫し、天日や熱風で乾燥させた単一の農産物であり、何ひとつ他の香辛料はブレンドされていません。
では、なぜ「オール」という包括的な名称が定着したのでしょうか。歴史を紐解くと、16世紀に新大陸へ到達した探検家たちがこの実を持ち帰った際、ヨーロッパ人を熱狂させました。当時極めて高価だった「シナモン」「クローブ」「ナツメグ」という3大スパイスの香りを一粒で同時に放つ奇跡の植物として絶賛され、イギリス人医師や植物学者たちが17世紀に「オールスパイス(Allspice)」と命名した記録が残されています。つまり、配合が「オール」なのではなく、香気成分のバリエーションが「オール」であることを意味しているのです。