この歴史的なテレビCMが生まれた背景には、計算され尽くした絵コンテを覆す「現場の生々しさ」があった。キャスティングに際して行われたオーディションでは、多数の候補者が「いかに美味しそうに、美しく食べるか」を競い合っていたという。
その中で松村雅史が見せたアプローチは異質だった。彼はカメラの前で格好をつけることなく、純粋に空腹のまま、がむしゃらに茶碗へ顔を突っ込んだ。その無我夢中な姿に、制作陣は作り物の演技では決して再現できない「生活者の真実」を見出したのだ。
撮影現場でも過度なリハーサルは避けられた。テイクを重ねるごとに失われていく初動の飢餓感を逃さないため、本番のカメラは彼の貪欲な口元を逃さず追った。口の周りに飛んだ粒や、不規則に鳴り響くたくあんの音すらそのまま採用されたことが、結果として唯一無二のリアリティを生み出す決定打となった。