両者の戦い方を決定的に分断しているのが、「肘打ち」と「首相撲(クリンチからの攻防)」に関するルール、そして勝敗を判定する「採点基準」です。
ムエタイでは、パンチ、キック、膝蹴りに加え、顔面への肘打ちルールが無制限で認められています。肘は頭蓋骨を切り裂き、一撃でTKO(ドクターストップ)を呼び込む危険な武器です。さらに、相手の首を両手で抱え込んで体勢を崩し、膝蹴りを叩き込む首相撲が試合の勝敗を大きく左右します。タイ国内の二大殿堂である「ラジャダムナン・スタジアム」や「ルンピニー・スタジアム」では、首相撲で相手を完封し、マットに転倒させる技術(コカし)が極めて高く評価されます。
これに対し、一般的なキックボクシングでは首相撲が制限または禁止される傾向にあります。特に「K-1」や「RISE」に代表されるメジャープロルールでは、肘打ちが禁止されているだけでなく、相手を掴んでからの攻撃は「1回のみ(ワンアタック・ワンヒット)」または「完全禁止」と規定されています。首相撲が長引くと観客目線でのスピード感が損なわれるため、テレビ映えやスピーディなノックアウト劇を追求した結果、掴みを排除するルールへと進化しました。
さらに見逃せないのが、タイにおけるムエタイ採点基準とギャンブル文化の結びつきです。タイのスタジアムでは観客による合法的な賭け(賭博)が行われており、試合展開は1〜2ラウンドがお互いの様子見(賭け率の調整)、3〜4ラウンドが激しい山場となり、5ラウンドでは優勢な選手が無理に倒しに行かず流すという独特のゲーム運びが定着しています。ダメージだけでなく「攻撃を受けた際の姿勢の美しさ(体幹がブレていないか)」や「相手をコントロールした芸術点」が重視されるのがムエタイの特徴です。