数あるエピソードの中でも、テレビ史に残る異例の企画として語り継がれているのが、SMAP回とイチロー回です。架空の人物ではなく「実在するスターが本人役として完全犯罪を企てる」という大胆不敵な試みは、三谷幸喜氏の卓越した筆力によって大成功を収めました。
絆が生んだ悲劇『古畑任三郎 vs SMAP』(1999年)
アイドルグループ「SMAP」の5人が、理不尽な脅迫者からメンバーを守るために共謀し、コンサートホールのバックステージで完全犯罪を実行するという衝撃のプロット。当時、国民的人気の頂点にいたアイドルが犯人役を務めること自体が前代未聞でした。
脚本の三谷氏は、メンバーそれぞれの性格やグループ内での立ち位置を綿密に取材し、セリフや行動の細部に至るまで徹底的な「あて書き」を敢行。「仲間を救うための殺人」という切ない動機と、古畑の容赦ないロジックが交錯するラストシーンは、世帯視聴率32.3%を叩き出しました。
現役スーパースターの熱望で実現『フェアな殺人者』(2006年)
シアトル・マリナーズで活躍中だった現役メジャーリーガー・イチロー氏が出演したファイナル第2夜。実はこの企画、大の古畑ファンだったイチロー氏側からの「犯人役として出演したい」という熱烈な逆オファーがきっかけでした。
三谷氏は「イチローのストイックで完璧主義なキャラクター」をそのまま活かし、異母兄弟のチンピラを葬る冷徹かつスマートな犯人像を構築。現場でイチロー氏は完璧にセリフを頭に入れ、田村正和さんとの1対1の芝居でもNGを出さずに渡り合いました。犯行を認めた後、古畑に向かって語る「フェアじゃなかったですね」という名ゼリフは、アスリートとしての矜持を見事に落とし込んだ傑作シーンです。