王メルエムは当初、人間を食料や下等な存在として見下していた。力こそがすべてであり、弱者は蹂躙されるべきという強者の理論。その論理を根本から崩壊させたのが、コムギという存在だ。
メルエムは一度、コムギを脅迫し、恐怖によって屈服させようと試みた。しかし、彼女は死の恐怖ではなく「軍儀で負けて役に立たなくなること」だけを恐れていた。命の乞いなど一切せず、ただ盤上にすべてを捧げる瞳。その純粋さに、メルエムは生まれて初めて「尊敬」という感情を抱く。
武力では測れない人間の強さ。個体の価値とは何か。軍儀を通じた静かな会話は、狂暴なキメラ=アントの王の精神に決定的な変革をもたらした。メルエムはいつしか、世界を武力で征服することよりも、この盲目の少女と対局を続ける時間を何よりも愛おしいと感じるようになったのだ。種族の壁を超えた人間性の萌芽は、物語の悲劇的なクライマックスへと向かって深まっていく。