都心の路地裏にあるスタンドでは、一風変わった光景が日常となった。客たちはカップを受け取ると、すぐには口をつけない。まず両手で器を包み込み、深く息を吸い込む。3秒吸って、ゆっくり吐く。
「15分間の嗅覚リセット」を掲げるこの店では、会話もタイピング音も禁止されている。スマートフォンの通知を切り、立ち上るアロマだけに意識を集中させる。わずか数百円で手に入る、都市生活者にとっての最も身近なメディテーション(瞑想)。視覚情報過多で麻痺した現代人の脳にとって、立ち上る温かな香気は、現実世界へアンカーを下ろすための命綱のような役割を果たしている。